ナチス・ドイツの占領地域だけではなく、そのお膝元にあっても、自由を求めた一人ひとりの抵抗があった。「君はこの腐った世の中に迎合していない。戦争が終わってもそれは大切なこと」という、フィリップがブランカを励ました言葉を心に留めておきたい。
藤森晶子(歴史研究家、『丸刈りにされた女たち』著者)
フィリップの本心、偽らざる率直な「言葉」は、たった一人きりで過ごす夜の場面の数々にて、セリフを介さずして実に雄弁に語られているようだ。彼にとっては――故郷も何もかも失った彼にとっては――この「言葉」こそが、仲間の死を越え、ポーランド人そしてユダヤ人という枠組みを超えた、かけがえのない個人としてのアイデンティティをめぐる死に物狂いの闘いを生き抜くための、たった一つのよりどころとなったのだ。
田中洋(杏林大学外国語学部 准教授)
ナチス支配下の、冷え冷えとした空気の中にたたずむ主人公の「哀しみ」の表情が忘れられない。
これは「自由と解放と、そして復讐」を求めた、新しいフィルム・ノワールだ
平山秀幸(映画監督)
主人公の行為は正義なのか悪なのか、それとも背徳なのか。ホロコーストを舞台にしながら、ステレオタイプな倫理ではない善悪の彼岸と真実の愛を描いていて、あまりにも圧巻。打ちのめされました。
佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)
相手の女を寝取ることで復讐・・・・。滑稽だからこそ、悲しい。その愚かさと孤独を主人公は、独特すぎる目付きと沈黙で語り尽くす。 エリック・クルム・ジュニア。すごい俳優を見た。
松尾スズキ(作家・演出家・俳優)
戦争により静かに壊されてゆく“人間であること”。
次々と破壊されてゆく愛と友情。
そして、主人公フィリップがたどりついた衝撃のラスト!
現代、ウクライナ、シリア、パレスチナ、アフガニスタンから逃れた多くの難民たち。自国を捨て国外に生きる難民たちのどうしようもない深い苦悩が、ナチスドイツの時代を通して繊細に、そしてリアルに描かれ、観る者をたちまちその世界に引き込んでしまう。
五十嵐匠(映画監督)
復讐心を燃やすフィリップがようやく、再び愛の温もりを得たと思えたのに──。戦争は何度でも人間を絶望に突き落とす。自分の心を消去したフィリップの衝撃の行動。表情を失った彼が、あの光景を見て噛み締めるものは何なのか? あまりにもやるせないラストは落涙すら寄せつけない。厳しい内容だが、真実とはこういうことなのだろう。
谷口正晃(映画監督)
流麗でスリリングなカメラワークが素晴らしい。気品のある映像美が、常に感性を刺激してくれる。孤独と噓で塗り固めた主人公。強烈に引き込まれるのは、逆境の中でも朽ちない艶やかな生命感を見事に描いているからだ。
大谷健太郎(映画監督)
ドイツ人将校の妻たちを寝とるユダヤ人青年、なんて聞くと煽情的でピカレスクだけど。欲望があって友情があって、本当の恋を知って喪失があって。自分の輪郭が浮かび上がるかと思いきやそれを押しつぶす戦争があって…。ひとの魂が形を結ぶことを許さない戦争。そんな日々の中でも喜びや悲しみを燃やす人間の愛おしさを描いた青春映画だった…。映画ぜんぶで「たしかに生きた」と言っている
古厩智之(映画監督)
狂気という言葉が生ぬるい物語とその時代背景に美女たちの肢体が踊り、悪魔となった男が復讐をこめて貪り尽くす。彼女たちの心をもっと知りたいが、男が容赦せずに蹂躙する地獄を美しく感じても良いのか?
金子修介(映画監督)
※敬称略/順不同